イラクで何がおこっているのか、日々流れてくるニュースを粒さにチェックすればいろんなことがわかってくるのでしょうが、なかなかそうもいきません。毎日、新聞の国際面をチェックするだけでも習慣化されない限りなかなか労力のいるものです。そこで、英語圏のサイトが多くなりますが流れをつかむのに役立ちそうなサイトを集めました。
*例えばこういった辞書ソフトを使うと、単語の上にカーソルを置いてキーボードを一つ二つ押すだけで日本語訳が出てくるので重宝します。
死亡者を数える
一人ひとりのかけがえのない命を数字でさらっと言い換えることは、死亡者を冒涜することになるかもしれません。しかし、死亡者数は状況を端的に表すものであるため注目せざるをえません。
まず、『イラクボディーカウント』(日本語設置解説)です。これは英語圏の報道から日夜死亡者数を拾い集めたもので、最大値と最小値を出すことで厳密さを呈しています。3月18日発表の最新のプレスリリースではこの1年をふり返るとともに年度ごとのトレンドを示してくれています。また、昨年8月より1週間ごとにイラクを巡る動きについて1ページ分の解説記事を載せており(しかも毎週続いている)、これを見ると1週間の出来事をおさらいできるようです。
『イラクボディーカウント』はマスコミにも度々取上げられるので有名ですが、しかしながらどの程度現実を表しているのか未知数です。報道されない死は相当あるのではないかと思われます。
イラク保健省によると2006年11月時点で10万〜15万人と見積もっています。ただし実感であって、公式調査は開戦以来一度も行われていません。
統計学を用いてはじき出した数がイギリスの医学雑誌『ランセット』に掲載されていますが、2006年7月時点で、65万5千人と一気に跳ね上がります(2006年度アップデート版)。ここまで数字が大きくなると疑念を抱くひとが出てきますが、そうではないと明確に否定する材料がないのが現状です(ランセットの論文はユーザー登録すると全部無料で閲覧できます)。
占領軍の方は、『Iraq Coaliton Casualties』がよいでしょう。こちらの死亡者や怪我人は各国の軍当局の公式発表にもとづくもので、『イラクボディーカウント』よりはある意味正確です。とはいえ、米軍や多国籍企業が雇っている非正規軍は全くカウントされておらず、こちらも本当のところはベールにつつまれています。
ジャーナリストやメディアアシスタントの活動はイラクの状況を知る上でたいへん重要ですが、彼らがいかに命の危険にさらされているのかを統計的にまとめたレポートをちょうど1年前にフランスの『国境なき記者団』が発表しました。それによると犠牲者全体の8割がイラク人で、4割が外国メディアの元で働いており、8割が銃による殺害であり、5割が誰にやられたのか不明というものです。2007年3月19日現在、106人のジャーナリストと49人のメディアアシスタントが殺害されており、このほかに行方不明者が何十人にも上っています。
生活の質を測る
イラク人は現在の状況をどう感じているのか?BBCなど英米独のメディアが2,000人規模の世論調査をこの2〜3月にかけて行いました(PDF)。その結果はおしなべて悲観的です。例えば、生活全般において2004年、2005年は前年よりよくなったと感じている人が割合多かったのに、2007年になるとあらゆる面で数字が落ち込んでしまいました。とりわけ治安に対する不安が大きく、場所でいうとバグダッドやその周辺地域、シーア派スンニ派にわけると、スンニ派において深刻です。ブッシュ大統領の肝いりでなされているバグダッドやアンバール州における米軍増派については、3割のひとが事態を好転させる、5割が悪化させる、2割が大した影響がないと思っています。米軍の侵攻はスンニ派では8割が大いに間違っていると感じていますが、逆にシーア派になると7割が大いに、あるいはある程度正しいと感じており全く逆の評価です。しかしながら、現在の米軍に対する評価は全体的に低い、もしくは非常に低く、撤退に関しては全体の7割以上の人が今すぐ、もしくは治安が安定したら出て行って欲しいと感じています。
医療事情と生活環境についてまとまったものと言えば、イギリスの政策提言型NGOの『メダクト』の年間レポートがあげられます。イラク政府、国連、NGO、報道、独自調査と様々なソースを集めてきて実態を明らかにしようと試みています。2006年の春のレポートによると、医療が崩壊の危機に直面していることを警告しています。例えば、薬が足りないのは言うまでもなく、知識層を狙った暗殺や脅迫が相次いでいるため医者不足が深刻であることや、アメリカの復興資金が復興そのものではなく治安に回されていたり、公金搾取によって計画どおりに進んでいないことを上げています。
『UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)』は1月に本年度のイラク難民や国内難民を対象とした援助計画を発表しました。それによると、2006年末に、周辺諸国に住む難民が200万人以上、国内難民が170万人にのぼると推定しています。国内難民については、2003年より前の時点でかなりのひとが難民になっていたものの、2006年2月のシーア派モスク・アスカリ廟が爆破されて以来急増。2006年だけで50万人程度増えたと見積もっています(この事件が事態悪化のきっかけになったという見方が一般的です)。月にすると4〜5万人が家を追われており、現在もこの傾向が続いているとみています。国内と国外の難民をあわせると、イラクの総人口の8人に1人が難民という計算になり、このようなひとの大移動は中東において1948年のイスラエル建国以来であると指摘しています。
占領軍(駐留軍)を検証する
少し古いですが、朝日新聞のサイトで「駐留中のイラク派遣部隊」「イラクへの部隊派遣と撤退国の数」が図になっています(朝日新聞はイラク情勢を説明するのに新聞紙上では図表をよく使っており大概よくできています。ほとんどネットに掲載されないのが残念)。
CNNでは占領軍とイラク軍の部隊編成や武器が一覧になっています。
自衛隊派遣に対する違憲訴訟は全国10ヶ所以上で取組まれており、期間によっては原告を募集しています。なお、裁判を傍聴することは簡単。席が空いていれば部外者でも部屋に入れてもらえます。
支援の状況を知る
『NCCI(イラクにおけるNGO調整委員会)』は、80の国際NGOと200のイラク国内のNGOからなるネットワークを形成しており、安全の確保と業務の効率において一定の役割を果たしています。参加メンバーは安全のためネットでうかがい知ることはできませんが、ヨーロッパのNGO(イラク支援はヨーロッパのNGOによるところが大きいそうです)を中心に日本のNGOも参加していると聞きます。非公開の情報が多いようですが、一部は公開されています。援助関連の国連のプレスリリースなども転載しており、詳しく知りたいひとにとっては重宝するサイトでしょう。
『国際赤十字』は『イラク赤新月社』とともに活動する唯一イラク全土を対象にしているNGOで、時折レポートを公開しています。ちょうど2006年度のイラクでの活動をまとめたものがサイトに掲載されました。何をどれだけ誰になされたのか具体的な数字が並んでおり、現場の空気が伝わってきます。
日本においては、継続的にイラクの民間人に対してなんらかの直接支援をしているNGOやボランティア組織は限られており、年間100万円以上となると10箇所にも満たないようで(もしかすると5箇所程度)、もっと小規模なところは熱意は伝わってくるものの説明不足であったり戦略が見えにくいところもみられます。しかしながら、『JIM-NET』は日本のNGOとしては支援規模が大きく、小児がんという切り口からイラクの現状、具体的な解決策、取り組みの過程を詳しく説明しており説得力を感じます(ネット、出版物、雑誌寄稿記事を見て)。「通販生活」の『カタログハウス』が一躍をになっていたり、ファンドレイジングを意識したキャンペーングッズは、マーケティング的にも秀逸です。
劣化ウラン弾を考える
劣化ウラン弾については開戦直後に比べると報道がめっきり減っていますが、ヨーロッパに目をやると包囲網が形成されつつあることを実感できます。ベルギーは3月7日、議会の国防委員会で、「劣化ウラン弾禁止法案」を全会一致で可決しました。上院で可決されることは確実でこの国が世界に先駆けて劣化ウラン弾禁止を法律に盛り込むことになりそうです。こういった先駆的な取組みは、NGO関係者や研究者、アクティビストなどで構成されている『ICBUW(ウラン兵器禁止を求める国際連合) 』によるところが大きく、「対人地雷禁止条約」と同様のNGO主導によるモデルを踏襲しているようです(クラスター爆弾禁止条約にも言えます)。
ロビー活動やキャンペーンのほかに、劣化ウラン弾が人体に及ぼす影響についての疫学調査にも取組んでいます。日本においては、『NO DU ヒロシマプロジェクト』が中心的役割を担っています。
アメリカの反戦運動をうかがう
イラク反戦で動きが活発なのはやはりアメリカです。昨年の今ごろと比べると今年の方がサイトを見る限り全体的に盛り上がりを感じます。
なかでも『UFPJ』は、昨年11月まで2007年最初のデモを4周年にあわせたものとしていましたが、中間選挙で民主党が勝利し、イラク戦争が昏迷を深めていることが国民に広く認識されるようになったことを受けて、急遽1月にワシントンDCでデモをしました(この様子は開戦以来最大のデモとして日本でも報道されました)。また、新しい取組みとして女性団体の『Code Pink』などとともに『The Occupaton Project』を展開しています。これはイラク戦費の追加予算を認めないよう上下両院議員に迫るもので2月5日から8週間限定のアピールです。これのユニークなところは、どういったキャンペーンをしているのか中央のスタッフが全米各地のアクティビストに電話インタビューしてそれをネットラジオとして公開したり、実際の行動を記録して『You
Tube』で流したりしているところです。
一方で『アンサー』は、3月17日(土)のワシントンDCのデモにあわせて手の込んだサイトを作ってきました。資金力のある『ムーブオン』やスタイリッシュな『Not in Our Name』も活発に活動していることがうかがえます。
ここ1年でアメリカの反戦サイトで特徴的な変化があります。それは無料の動画アップロードサイト『You Tube』を通した動画配信をコンテンツに取り込むところが一気に増えたことです。残念ながら日本の反戦サイトにこういった変化は見られません。もっとも、著作権に厳格な日本の放送局の圧力で、『You
Tube』が日本からのユーザー登録を一切認めなくなったことが大きいのですが(閲覧はできますが、アップロードできません)。
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